十和田湖山荘にて　　　Ｈ１１年１０月２８日　　　　中村　仁一郎　記

胡桃荘の若女将に十和田湖山荘まで車で送ってもらった時の話である。
「まあ上がってお茶コでも飲んで行ったらいいんでしょう」
と言う十和田湖山荘の女将の言葉に小生も一緒に加わって、お茶をご馳走になり一通りの挨拶を終えると、
「今年は胡桃荘さんの方ではカメ虫の発生は如何ですか？」
と山荘の女将がきりだした。
「今年は特に多い様ですよ」
と若女将が答えると、
「ソンダバいい業者バ紹介しましょうか？」
などと話は何時しかカメムシの話になっていった。
「あんまりお客の苦情が多いので、今年は専門の業者サ頼んだのサ」
と女将は今年おこなったカメ虫対策について話し始めた。
「何の薬バ使っているか教えてくれネンダバ、何かノウハウがあるらしいのサ、ンでもお陰であんまり入ってこなくなったヨ」
と、専門の業者まで頼んでカメ虫対策をおこなう羽目になった次のような事件を紹介してくれた。
「ある時ダバ、お客さんサ飯コ食べさせていたら天井から落ちてきたカメ虫がお客さんの吸い物椀サ入ってしまい、コッタラ事ダバ銭コは払えないっとお客さんが怒ってしまって大変だったヨ、又ある時ダバお客さんの布団の中サ、カメ虫が入り込んでいて部屋コバ変えてくれないのならよその宿サ行くのって、大騒ぎされて困ったことがあるヨ」
と、カメ虫による被害について具体例を挙げて話してくれたが、さらに自らの体験談として、
「おらァ、ハァ、あの虫のおかげで死ぬ思いバした事があるヨ」
と切りだし、
「どうしたんですか？」
と言う若女将の問いに
「ある時ダバ、上を向いた瞬間にパッとカメ虫の体液バ目にかけられてしまってサ、痛くてドモなんねえの。　　アン時ダバおらハア失明するかと思ったヨ。　何回も目医者サ通って洗眼してもらって、やっとの事で直ったのサ」
と言う話に一同笑いこけてしまったがさらに、
「秋のお客が一番多い頃にサ、仕事バ終えて疲れてしまってぐっすり寝込んでしまっていたところサ、夜の夜中に饅頭のあたりがムズムズムズと痒くなったので、無意識のうちに掻いてしまってサ。　後から思えばハア自分でカメ虫バ饅頭サ練りつけてしまったらしいのサ。　一番皮膚の薄くなったあたりがただれてしまって、痛痒いったら無かったよ！。　アン時ダバおらハ死ぬ思いバしたよ。　医者サ行くにも恥ずかしくてサ！」と自ら体験した、カメ虫が臭気以外にも人体に直接被害を与える話をご披露に及んだが、この時ばかりは、
「そうだったんですか」
と、感心したものの一同、笑いを堪えきれずに思わず吹き出してしまった。
　美人女将に惚れ込んだカメ虫が一匹居たばかりに女将は大変な目にあってしまったが、せっかく居心地の佳さそうな場所を探し当てたと思ったらすりつぶされてしまったカメ虫君も災難ではあったろうと思う。

　閑話休題。